20項目にもわたる「T・ベーシック」という行動指針があります。
そこには、具体的な行動の在り方が細かく規定されています。
ホテル内で迷ってしまったお客さまに行き先を尋ねられたら、たとえどんなの人間であっても、必ず目的の場所までそのお客さまをエスコートしてください。
同様に、サービスの評価の高いTも、ここで働く人たちからお客さまへと、らしさがひしひしと伝わってきます。
Tには「この仕事を通じて、お客さまの夢と良い思い出づくりに貢献しよう」という基本理念があります。
このようにTでは、Wが初めてDをつくったときの夢や理想といったものが、今でも基本理念の中に生きているのです。
そして、それが行動指針として落とし込まれています。
ですから、カップルやファミリーのお客さまが写真を撮ろうとしていたら、キャストがさりげなくカメラマンとなって写真をお撮りするといった、ちょっとした心遣いが常にキャストの行動として表れてくるのです。
これも当初は驚きでしたが、ゲストに快適に過ごしてもらうには清潔でなければならない、ゲストが思い出づくりをする場所にはチリ一つ落ちていてはいけないという考え方を具体化したものなのです。
このようにTでは、キャストの職務、役割、行動がすべてDテーマパークの基本理念に沿っています。
確かに、こうした行動は各個人にホスピタリティがあればできることかもしれません。
しかし、Tでは哲学や理念が明確であるからこそ、個人のホスピタリティも高まり、だれもがお客さまに快適に過ごしていただこうと努めるのです。
日本の例として、Aのホスピタリティへの取り組みを、教育訓練システムプロジェクトのリーダーであるH氏にお話を伺いました。
当社は社員を大切にすることで、顧客に卓越したサービスを提供し、株主に高い益をもたらす、世界一のロッジング・マネジメント・サービス会社となることを目標に頑張っています。
利益をもたらす、企業使命とする。
これまで会社全体としていろいろなかたちでホスピタリティに取り組んでまいりましたが、現在継続しておりますのは、「Aの心」です。
今から4年前に、わが社の教育訓練システムを構築するために、「教育訓練システム・プロジェクト」というチームが活動しておりましたが、その活動の中でTの「クレド」やS・Lのコンセプトを知り、わが社でもすでに確立している経営理念や経営方針に基づいた行動規範なるものをつくろうということになりました。
そして、そのプロジェクトチームが推進役。
まとめ役となり、パート社員も含めた全社員二百数十名から募集してできたのが、「Aの心」の中の「Aの基本」21項目です。
また、「Aの心」という名前も社員から募集して決めました。
内容としては、最初に社員同士、働く仲間同士のことについて、次にお客さまに対してのことを、そしてクリンリネス、食品安全衛生のことや、仕事に対する取り組み方などが書いてあります。
わが社だからといって特に変わったこと、独自のことが書いてあるわけではありませんし、当たり前のことばかりが書いてあります。
しかし、当たり前のことが常に当たり前にできていないのが現状でもありますので、とにかく基本を一つずつできるようにしていこうという趣旨のものです。
創業300年の伝統を守り続ける姿が、この「Aの心」に集約されているといっても過言ではないでしょう。
らしさを表現していることが、長年にわたるお客さまの支持につながっていると思います。
幾つかの事例を見てきましたが、ここで注意していただきたいのは、企業の哲学・理念、社員信条や行動指針は明確になっていればよいというものではないことです。
につけ、折々に見るようにしております。
また、店舗によっては毎日の朝礼において、一日一項目ずつ毎日唱和し、司会者あるいは所属長がその項目についてコメントを述べるなどをして浸透を図っております。
店舗のミーティングや部門のミーティングにおいても、幾つかの項目を取り上げミーティングのテーマにするなどして、実際の現場においては具体的にどういう行動に移すかなど議論、意見交換しております。
新入社員研修においても、当然社員の基本として説明しております。
金沢国際ホテルにおいては、毎週一項目ずつをバックャードの各所に掲示し、意識付けを行っております。
当然のことながら、その中身と表現が大切です。
どの事例にも共通しているのは、ホスピタリティがサービスの原点である以上、まず、企業の哲学・理念の中にも、人に対する思いやりや親切心、心からのおもてなしの気持ちなどを大切にしていこうという姿勢を表していることです。
それに対して、例えば「ベストを尽くせ」「利潤を追求しよう」「食生活の向上を目指そう」といった表現が、前面に出ていたらどうでしょうか。
あまり温かさを感じさせませんし、従業員も自らすすんで前向きに働こうという気持ちになりにくいでしょう。
心、気持ちを大切にしようという現代では、ちょっと遅れた感が否めません。
例えば「お客さまの笑顔が私たちの喜び」「心の通うサービスの大切さ」といった表現で、豊かさ、優しさ、温かさ、明るさ、楽しさなどをイメージさせる哲学でないと、私たちサービス産業は味気ない、寂しいものになってしまいます。
事例で見てきたように、ホスピタリティを土台とした企業理念や哲学を打ち出し、それが社員信条や行動指針として具体化されている企業こそが、お客さまにしっかりと支持されているのです。
と同時に、従業員全員が企業の目指すところを理解し、前向きに、しかも楽しく働く環境があるのですから、企業の体質としてもより強くなっているのです。
それに対して、そうした哲学や理念、らしさがない企業は、働く人たち一人ひとりのホスピタリティも向上しませんし、お客さまの支持も得られません。
とはいうものの、一度掲げた企業哲学や理念というものはなかなか変えられるものではありません。
まずは、社員の信条や行動指針にできるだけホスピタリティの要素を盛り込むことから始めてみてください。
それがきちっとできただけでも、店舗や企業の環境が変わるはずです。
組織としてのホスピタリティ環境づくりにもう一つ欠かせないのが、ヒューマン・リソース・マネジメント、直訳すれば、人的資源経営ということです。
日本ではこの言葉を初めて聞かれる方、または、聞いたことはあっても内容はよく理解していないという方がほとんどだと思います。
しかし、サービス産業の先進国アメリカでは、今、このHRMに力を入れている企業が確実に成長しています。
繰り返し事例に取り上げているTやM、日本で大成功を収めたDなどは、その代表的な企業です。
そもそもHRMの意義、目的とは、人を中心として動いている私たちサービス産業において、人にかかわるあらゆる機能を整理整頓し、そこで働く人々のモチベーション(働く楽しさ、サービスする喜び)と、リーダーシップ(決して義務感ではなく、自ら率先して行動すること)を高めていくことにあります。
具体的には、組織管理、労務管理、募集・面接・採用、そして教育・訓練など、人にかかわるすべての機能を指します。
こうした機能を整備しないかぎり、組織としてのホスピタリティ環境づくりを実現することは困難です。
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